2012年3月25日日曜日

過失による器物損壊は不可罰との指摘がありますが、上記比喩では未必の故意が認定可能です。(刑事罰は業界を崩壊させ得る - 元検弁護士のつぶやき)

刑事罰は業界を崩壊させ得る - 元検弁護士のつぶやき
刑事罰は業界を崩壊させ得る

小倉秀夫弁護士が、「刑事罰は業界を崩壊させるのか」というエントリを書いておられる。

どの業界を念頭においてのエントリなのか明示がないので不明です。
きちんと明示して批判なさったほうが、小倉弁護士があげている比喩が的外れなものか当たっているのかはっきりして、より有益な議論になると思うのですがそれはさておき

業界というかある種の仕事について、刑事罰によって崩壊させられる場面を想定することは可能です。
小倉弁護士は長距離トラック運転手の例をあげておられますので、私もトラック運転手を例にとってみます。

A町からB町までの間の道路事情はとても悪く、穴ぼこばかりの未舗装道路ばかりであったと想定します。
甲運送会社はA町からB町までの物資輸送を請け負っていましたが、途中の道路の未舗装による振動により、1週間に1~2回は積荷が損傷するという事態が発生していました。
しかし、顧客たちは、道路が悪いんだから仕方がないと考え、誰も甲運送会社や同社のトラック運転手の責任を追及したりしませんでした。
ところが、ある時、ある顧客が、運送会社が積荷を無事に届けるのは当然だと主張して、壊れた積荷に関する損害賠償請求訴訟を起こすと同時に、運転手と社長を器物損壊罪で刑事告訴しました。
裁判所は、顧客の賠償請求を認め、社長や運転手は、争ったことから逮捕勾留の上起訴された刑事事件でも有罪になってしまいました。
甲運送会社の社長や運転手は、こんな仕事やってられないと言って、A町からB町への荷物の輸送をやめてしまいました。
もちろん、別の会社もA町からB町への荷物の輸送を請け負うことはありませんでしたとさ。

比喩は以上ですが、何が言いたいかといいますと、ある業界でそれまで「普通のこと」とされていたことが犯罪だとされてしまうと、その業界は崩壊するということです。

似たようなことが現在進行形で起こっています。

福島大野病院事件です。
帝王切開手術の際に妊婦が死亡した事案において、執刀医が業務上過失致死罪等により起訴されました。
まだ判決は出ていませんが、産科医業界では被告人医師の治療行為は「普通のこと」(*)と認識されており、この事件によって産科医の減少は確実に加速したと考えられています。

なお、医療行為全般に対する刑事免責については、私としても賛成しかねます。
ただし、全国医師連盟の「代表からのご挨拶」において、代表の黒川衛氏は

救命活動時の部分刑事免責

を主張されています。
これにつきましては、法制度としての刑事免責へのハードルはかなり高いと思いますが、検察の起訴基準見直し等による運用上の対応の必要性がある領域であると考えています。

(*) 「普通のこと」は私がこのエントリ用の表現として用いたもので、被告人・弁護側の表現ではありません。

追記
はてブで、小倉先生とおぼしきIDで、過失による器物損壊は不可罰との指摘がありますが、上記比喩では未必の故意が認定可能です。
過失犯立件の当否の問題じゃなかったのか、という批判が予想されますが、私はこの問題を刑事司法の介入の当否の問題と考えています。そして、私の理解では刑事罰というのは故意犯も過失犯も両方含みます。
未必の故意と認識ある過失の境界はあいまいですしね。

このたとえ話が適切かどうかの判断は、医療崩壊問題に関する理解の程度によって左右されるだろうと思います。
どの例えがどの事情をあらわしているかは、知らない人にはわからないでしょう。
なお、このエントリが釣られエントリであることは間違いありません。
売り言葉に買い言葉ですね。
反省してます m(_ _)m
あ、この追記もそうですね m(_ _)m m(_ _)m
モトケン (2008年6月15日 16:50) | コメント(329) | トラックバック(2) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)




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